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成田慎のレバノン潜入記2

イスラエルのプロパガンダ

サイダの空に何かが舞っているガジエ村からベイルートに一旦戻り、翌朝早く、他の二人の日本人と共にサイダへ再出発した。この二人は、一方がビデオジャーナリスト、もう一方はカメラマンで、僕がサイダまでは簡単に行ける事、その先のスールもなんとか行けそうだという事を話すと、一緒に行こうという話になった。
正直少し迷ったが、まあ、どうも二人の話を聞いていると、僕の営業先(取材の発表先)とかぶることもなさそうだし、サイダからスールへはいくら金が必要か分からない。割り勘にすればその不安も多少は解消される。というわけで、僕達三人は同じセルビスに乗って出発した。サイダに着いたのは、午前9時過ぎだった。
サイダからスールまでのドライバーは簡単に見つけられた。50ドルで行けると言われ、予想外に安い料金に僕達は喜んだ。そのドライバーは英語もそれなりに堪能で、若いが信用できそうだった。僕達はドライバーに少し待つように言い、朝飯を買いに行った。 その時、周りの人々が騒然とし始め、皆が空を見上げた。僕達もつられて見上げると、パン!という破裂音と共に、ちらちらと白い何かが空中に散布された。
風に流されながら舞い落ちるその何かを拾おうと、周りの人々が走り始める。僕も、彼らの後を追って走った。

走る人々と、拾って帰ってくる人々落下物はプロパガンダ用のチラシだった。もちろんイスラエルからのものだ。アラビア語で書いてあり、僕には読めない。後で聞いた話では、要約するとこう書かれていたという。「イスラエルがあなた達を殺しているのではない。ナスララが、殺しているのだ」

「ナスララ」とは、ヒズボラの指導者の事だ。「あなた達」とは市民を指す。イスラエルは、この戦争で何度も一般市民を爆撃の犠牲者とした。国際的な非難も浴びている。しかしそれらは、戦闘行為をやめないヒズボラ、さらにはナスララの責任だと言いたいらしい。ただし、イスラエルがこのプロパガンダの効果をどれだけ真剣に期待していたかは定かではない。

走る人々と、拾って帰ってくる人々市民が犠牲になっているのは、何もレバノン国民だけではない。イスラエルでも、ヒズボラが撃ち込んだミサイルが市民を殺傷している。BBCの報道では、市民の犠牲者として、イスラエルが43人、レバノンが1109人(ヒズボラ関係者がどの程度含まれているか、正確にはわからない)となっている。

リタニ川以南の恐怖

スリル満点のリタニ渡河作戦 イスラエルは、リタニ川以南で走る車があれば、その安全は保障できないと宣言していた。事実、特に夜間移動する車は狙い撃ちされていた。レバノン南部はヒズボラの活動拠点が多くあり、イスラエルとの戦闘も激化している。リタニ川はその激戦区の境界線的な目安となったわけだ。そして、僕達が行こうとしているのはそのリタニ川よりも南にある、スールだった。ドライバーはこう言っていた。
「リタニ川までは車で行ける。だが、川を越えられるかどうかは分からない。もし越えられなければ、悪いが歩いてスールまで行って欲しい」 リタニ川からは、確かに歩けない距離ではない。僕達はそれを了解し、車に乗り込んだ。
車は猛スピードで南下した。リタニ川以北でも、車は攻撃される恐れがあったからだ。所々、ぺしゃんこになった車が放置されている。ほとんど対向車は現れず、たまにあってもやはり猛スピードで走り抜ける。
一時間ほどで、車はリタニ川に到着した。思ったより小さな川で、即席で架けられた簡素な橋がある。そこに二人の男性がいて、僕達の車を誘導し始めた。ドライバーによると、彼ら二人は民兵だと言う。ヒズボラではないが、とにかく民兵だそうだ。(※レバノンには正規軍としてレバノン国軍があり、それ以外、例えばヒズボラの戦闘員も民兵と言える)
たいした幅もない川だが、頼りない橋を通過しなければならないとなると、やはり怖い。それでもなんとか無事に川を渡り終え、約20分後、僕達はスールについた。


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