

棚橋弘至(たなはし・ひろし)
プロレスラー。1976年11月13日生、29歳。新日本プロレス所属。岐阜県出身。99年に真壁伸也戦でデビュー。一時、シリーズから離れていたが03年2・16両国で復帰。3月には自ら提唱したU−30を実現しリーグ戦を勝ち抜き、決勝では真壁選手を破り初代U−30王者に。今年の1月にはアメリカTNAマットに参戦し、AJスタイルズ、ロデリック・ストロングと対戦。現地では「ハイ・フライング・スター」と高い評価を受けた。
2003年、U−30初代王者
2005年、ニュージャパンカップ優勝
同年IWGP・U−30王者に返り咲き
9月にはアメリカ遠征を果たす
初めて強さを目指した中学時代の敗北
プロレス界一と言われる肉体美を誇る棚橋選手。男なら誰もが羨むような均整の取れたしなやかな筋肉はまるで芸術品のように美しい。特に腹筋の引き締まり方は素晴らしく、ボディビルダーの腹筋のようだ。彼のような肉体は我々凡人には決して手にすることができないのだろう。
棚橋「いえ、もともと高校時代は65キロしかなかったんですよ。中学までは弟と腕相撲をしても負けるくらい腕力もなかったですし」
そんな男がどうしてプロレスラーという肉体のみを武器にする世界を選んだのだろうか?
「弟に腕相撲で負けたのが中2の時で、それが悔しかったので市の体育館で身体を鍛え始めたのが身体作りに興味を持ったきっかけですね。ウェイトトレーニングって最初の3ヶ月は何にも変化が出ないから続かない人が多いんですけど、僕は何とか3ヶ月続けたんです。そうしたら身体が劇的に変わって、そこから楽しくなったんですよね。腕相撲のリベンジですか? もちろん果たしましたよ(笑)」
その後、高校に進学して野球をやりながら身体作りに精を出し、いつか最強の肉体を持つプロレスラーへ興味を持つようになっていった。
「きちんとウェイトトレーニングの基礎を学んだのは大学時代なんですけど、その前は身体を大きくするために色々なことをやりましたよ。例えば、一気に牛乳1パックを飲んでお腹を壊したこともありましたね(笑)」
第一志望の会社は「新日本プロレス」
立命館大学に進学して彼は目標への第一歩としてアマレスを始め、85キロ級で活躍していた。当時はどのように鍛えていたのだろうか?
「身体を大きくしようと思ったら、たくさん食べたりプロテインを買ったりしてお金がいくらあっても足りないんですよね。だから『どうせバイトするなら割がよくて身体を鍛えられるようなものにしよう』と思って引っ越しのバイトや単発の肉体労働をやっていました。やっぱりアルバイトも汗をかくもののほうが気持ちいいですからね。
ですから、大学時代は女の子と遊ぶためにバイトする連中とは一線を画していましたね(笑)」
ひたすら目標を追い続けて練習に励んできた棚橋選手は、皆が就職のために会社説明会に走り回る中、ひたすらジムで身体を鍛え上げていた。
「僕にとって、新日に入門するために鍛えることが就職活動だったんです。周りが次々に就職しているのを見て、不安じゃなかったと言えばウソになるけど、それでも高校時代からの目標でしたから挫けずに続けられたんだと思います」
その思いは見事に叶い、99年に彼は新日本プロレスに入門することができた。しかし、彼の目標はそれで満足することはなく、更なる高みを目指していた。
常に目標は高く!
「普通、入門すると練習がキツいせいで痩せていくんですよ。でも、僕は入門当時90キロだったのを半年で12キロ増やしました。
どうやって増やしたかと言うと、例えばプロテインを毎日10回飲んでいたんです。プロテインを飲むために、夜中に目が覚めるよう寝る前に1リットルの水をガブ飲みしてトイレに行きたくなるようにしたこともありました。ちょっとおかしかったかも知れないですね、あの時は(笑)」
それだけ強さを求めていたということなのだろう。そんな努力の甲斐あって99年には井上選手を破り初金星をあげている。その後の活躍はご存知の通りでU−30王者に輝き、そして現在はベルトを返上している。
「このままU−30を続けてもなかなか対戦相手が現れなかったから、次を目指そうと思ったんです。それに『自分より若い選手が続々と出てきているんだから、そういう選手たちがベルトを取り合ったほうがプロレスはもっと面白くなるだろう』という思いもありました。
あとは30歳になる前にU−30のベルトを返上したかったというのもありますね。でも、別に要らなくなったから返上する訳じゃないですよ。ベルトと一緒に成長してきたという実感があるからベルトには感謝しています。だから次の選手にはこのベルトの価値を更に高めてもらいたいと思っています」
その思い入れのあるベルトの次に狙うのはIWGPヘビー級王者のベルト。対戦相手はWWEで王者に輝いたこともあるレスナー選手だが、王者についてどう思っているのか?
「彼は強い。普通、体格の大きな選手は自分の肉体を過信して慢心するものですが、彼にはそれがない。だから今でも王者に君臨しているんだと思う。
レスナー選手は総合を目指していることもり、攻撃は激しいものになると思います。でも、そっちのほうがいい。僕が彼に勝るものを強いて挙げればプロレスに対する思い入れくらい。プロレスは相手の技を全て受け切る格闘技ですからね、全部受け止めますよ。プロレスで負ける訳にはいかない」
次の世代へのメッセージ
今では男子中高生のファンから「どうしたら棚橋選手のような身体になれるんですか?」というメールが来ることが多いという。
「やっぱり、こういうメールは嬉しいですね。自分が子供の時にプロレスラーに憧れたように憧れてくれるなんて最高ですよ。
そういう子供たちへのアドバイスは『とにかく練習を続けること』ですね。あまりアドバイスにならないかも知れないけど(笑)。でも、自分の経験からはそれしか言えないです。
練習をずっと続けるのは辛いけど、それでも我慢して続けると『練習をしたい』って、気分になるんですよね。そうなればしめたものです。僕なんか巡業終わって4時間したら『練習したい!』って身体がうずくんですよ(笑)。
僕にメールをくれた子供たちだけでなく、これを読んでくれた皆さんへのメッセージは『もっと欲を出して欲しい』ということ。みんな『仕事がつまらない』とか『仕事がキツイ』とか愚痴はあると思うんです。それを1歩踏み出して『じゃあ、オレが変えてやる!!』と実行に移すガッツがあればいいと思います。まぁ、まだ自分もそこまでできていないけど(笑)。
でも、レスナー選手に勝ってそれを自分で実行できるように頑張りますよ」
棚橋選手の目は現状に満足することなく、ひたすら上だけを見つめている——。